ジコ坊の「人の業」の意味は?「バカには勝てん」まで名セリフを読む

ジコ坊の「天地の間にあるすべてのものを欲するは人の業というものだ」は、シシ神の首を返せと迫るアシタカに向けた言葉です。天と地のあいだにあるものを何でも欲しがるのは、人間が背負った性分で、やめようと思ってやめられるものではない。首を手放さない言い訳であると同時に、戦の世を見てきたジコ坊の本音でもある言葉です。

ジコ坊のセリフは、どれも短く、少し突き放した言い方をします。言った場面と相手を押さえると、序盤は若者を励まし、終盤は同じ若者を突き放す、一人の男の二つの顔が見えてきます。

この記事では、ジコ坊の主なセリフを場面の順に並べ、それぞれの意味を読みます。中心は「人の業」と、最後の「バカには勝てん」です。

ジコ坊の名セリフはどの場面で出てくるのか

ジコ坊のセリフでよく知られているのは、次の5つです。前半の3つは、アシタカと出会った夜の野営の場面に集まっています。

場面セリフ相手
野営の夜(序盤)人界はうらみをのんで死んだ亡者でひしめいとる。タタリというならこの世はタタリそのものアシタカ
野営の夜(序盤)人はいずれ死ぬ。遅いか早いかだけだアシタカ
野営の夜(序盤)肝心なことは死に食われぬことだアシタカ
首を運ぶ途中(終盤)天地の間にあるすべてのものを欲するは人の業というものだアシタカ
森が芽吹いたあと(結末)いやあ、まいった、まいった。バカには勝てんそばに残った部下

5つのうち4つが、アシタカに向けた言葉です。序盤では呪いを抱えた若者を励まし、終盤では首を返せと迫る同じ若者を突き放します。同じ相手に、正反対の立場から話しているわけです。

「この世はタタリそのもの」はどういう意味か

アシタカは、タタリ神になったイノシシの足跡を追って西へ来ました。ところが人里に下りたとたん、足跡が分からなくなったと話します。ジコ坊はあたりを見回すよう促しました。前に来たときは村があったのに、洪水か地すべりでなくなっている、と。

人界はうらみをのんで死んだ亡者でひしめいとる。タタリというならこの世はタタリそのもの

戦、行き倒れ、病、飢え。人の世では、恨みを抱えたまま死んだ者がそこらじゅうにいる。だからタタリ神の足跡だけを探しても、見分けがつかない。ジコ坊はそう言っています。

ここで大事なのは、ジコ坊がアシタカの呪いを特別なものとして扱っていないことです。東の果ての村では、タタリ神は一大事でした。アシタカは村を守るために呪いを受け、髪を切って村を出ています。けれど西の人の世では、恨みも死もありふれたものでした。

僕は、このセリフがアシタカにとって最初の「外の世界」の説明になっていると読んでいます。守られた村を出た若者に、世の中はもともとこういう場所だと教える言葉です。

「人はいずれ死ぬ」は冷たい言葉なのか

アシタカは続けて、里に下りる途中で人を二人あやめてしまったと打ち明けます。村を襲う侍に矢を射たときのことです。それに対するジコ坊の返事が、これでした。

人はいずれ死ぬ。遅いか早いかだけだ

字面だけ見ると、人の死を軽く扱う冷たい言葉です。ところが、この一文のすぐあとに「おかげで拙僧は助かった」と続きます。ジコ坊は、その侍の小競り合いに巻き込まれていた一人でした。アシタカが射たから、自分は生き延びた。責めるより先に、礼を言っているのです。

そのうえでジコ坊は、アシタカの椀に雑炊をよそいます。スタジオジブリの公式アカウントのQ&Aでは、中身はアシタカが買った米とジコ坊の自前の味噌、野草だろう、というアニメーターの話が紹介されました。言葉だけでなく、自分の味噌を分けて食べさせる。ここにも、責めずに受け入れる態度が出ています。

同じ夜、ジコ坊はもう一言付け加えます。

肝心なことは死に食われぬことだ

「死に食われる」は、死ぬこと自体ではなく、死を恐れたり悔やんだりする気持ちに飲み込まれることだと読めます。人を殺めた罪の意識と、腕に広がる呪い。アシタカは二重に死に追われていました。そこで立ち止まるな、というのがこの言葉の中身でしょう。

「人はいずれ死ぬ」と「死に食われぬことだ」は、セットで読むと冷たさが消えます。人は死ぬものだと割り切ったうえで、生きているあいだは死に負けるな。戦の世を生きてきた男なりの励ましです。

「天地の間にあるすべてのものを欲するは人の業」はどういう意味か

物語の終盤、ジコ坊はシシ神の首を桶に入れて運んでいます。首を失ったシシ神は、森の命を吸い込みながら首を追いかけていました。そこへアシタカとサンが追いつき、首をシシ神に返せと迫ります。

ジコ坊の答えは、もう取り返しはつかない、陽が出ればすべて終わる、でした。そして首を手放さないまま、こう言います。

天地の間にあるすべてのものを欲するは人の業というものだ

「業」とは何か

「業(ごう)」は、もとは仏教の言葉です。人が体と口と心で行う行いのことで、その行いが生む報いも含みます。「理性では抑えられない心の働き」という意味もあります。

このセリフの「業」は、3つめの「理性では抑えられない心の働き」に近い使い方です。欲しがるのは良い悪い以前に、人が逃れられない性分だ、という意味になります。僧の身なりのジコ坊が仏教の言葉で言うことで、自分個人の欲の話が「人間というもの」の話に置き換わります。

開き直りか、本音か

一文を言い直すと、「天と地のあいだにあるものを何でも欲しがるのは、人間がそういう生き物だからだ」となります。

このセリフには、二つの読み方があります。

一つは開き直りです。首を返せと言われて、自分個人の欲ではなく「人間というものの性分」に話を広げた。そうすれば、自分を責めずに済みます。手を下した責任を、人類全体に薄めてしまう言い方です。

もう一つは本音です。ジコ坊は野営の夜、この世はタタリそのものだと言いました。欲が欲を呼び、戦と死がありふれた世の中を、この男はずっと見てきました。人間とはそういうものだという諦めは、その経験から出た実感でもあります。

僕は、両方が同時に入っていると考えています。言い訳ではあるけれど、嘘ではない。ジコ坊が自分を含めた人間をそう見ていたことは、序盤のセリフともつながっています。

アシタカは何と返したか

このセリフに、アシタカは理屈で言い返しません。「あなたを殺したくはない」と言って、力ずくで首を取り返そうとします。

人間はすべてを欲しがるものだ、という大きな話に、アシタカは目の前の一つのことで答えました。首をシシ神に返す、それだけです。「人の業」を否定したのではなく、業を抱えたままでもできることをやろうとしたのでしょう。

「バカには勝てん」は誰に向けた言葉か

首はアシタカとサンの手でシシ神に返され、森には緑が戻ります。最後の場面で、ジコ坊は、ただ一人そばに残った部下とそれを眺め、笑いながら言いました。

いやあ、まいった、まいった。バカには勝てん

ここでの「バカ」は、アシタカとサンを指すと読むのが自然です。損得を考えず、首を返すためだけに走った二人に、段取りと理屈で生きてきた男が負けました。

「人の業」と並べると、このセリフの意味がはっきりします。人は欲しがるのをやめられない、と言い切ったあとで、欲しがらなかった二人が結末を変えてしまった。ジコ坊は自分の世界の見方が外れたことを、笑って認めたように見えます。

ジコ坊が何者で、なぜシシ神の首を狙ったのかは、ジコ坊の正体は?師匠連の一員がシシ神の首を狙った理由で詳しく整理しています。

ジコ坊のセリフはなぜ心に残るのか

2021年8月13日、スタジオジブリの公式アカウントが『もののけ姫』のQ&Aの企画を行いました。そこでジコ坊は「単純な色分けが出来ない、独特なキャラクター」と説明されています。

セリフにも、その色分けのできなさが出ています。

  • 野営の夜は、呪われた若者を励まし、雑炊を分ける恩人
  • 終盤は、森を壊してでも首を持ち帰ろうとする男
  • 最後は、自分の負けを笑って受け入れる見物人

どの場面でも、ジコ坊は自分のしたことを悪いとも正しいとも言いません。言い訳めいた理屈を口にしても、謝りはせず、開き直りきることもない。善人の言葉でも悪人の言葉でもないから、観た人の中で答えが一つに決まらず、何度も思い出すのでしょう。

僕は、ジコ坊のセリフは「観ている大人の本音」に一番近いと思っています。アシタカのようにまっすぐには生きられない。それでも、まっすぐな人間に負けたときに笑える人ではありたい。ジコ坊は、そう思わせる大人として描かれていると僕は感じます。

まとめ

  • 「天地の間にあるすべてのものを欲するは人の業」は、シシ神の首を返せと迫るアシタカへの答え。欲しがるのは人間の性分だという、開き直りと本音が混ざった言葉
  • 「この世はタタリそのもの」は、恨みを抱えた死者がありふれた人の世を、村を出たばかりのアシタカに教える言葉
  • 「人はいずれ死ぬ」は、すぐあとの「おかげで拙僧は助かった」と合わせて読むと、責めずに礼を言う言葉。「死に食われぬことだ」がその励ましの中身
  • 「バカには勝てん」は、損得抜きで首を返したアシタカとサンに、自分の見方が外れたと笑って認める言葉

アシタカの「生きろ」との対比で読みたい人は、もののけ姫「生きろ」の意味は?糸井重里のコピーとアシタカのセリフも参考になります。映画の結末全体はもののけ姫のラストの意味|シシ神はなぜ死ぬ?痣と結末を解説にまとめました。ジブリパークのもののけの里に入れるチケットは、ジブリパークのチケット7種類の違い|プレミアムは必要?で比べています。

参考

  • もののけ姫 作品紹介(スタジオジブリ) — https://www.ghibli.jp/works/mononoke/
  • 『もののけ姫』を宮崎駿監督が解説!(ジブリのせかい。スタジオジブリ公式のQ&A企画のまとめ) — https://ghibli.jpn.org/report/qa-mononoke/
  • もののけ姫 — Wikipedia(登場人物と結末) — https://ja.wikipedia.org/wiki/もののけ姫
  • 業(weblio辞書) — https://www.weblio.jp/content/業

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