ジブリのOn Your Markはどういう話?ラストが2回ある意味

『On Your Mark』は、2人の警官が、研究所に閉じこめられた翼の生えた少女を連れ出し、空へ放つまでを描いた6分48秒の短編です。途中で一度失敗し、同じ場面をやり直して成功します。どちらが本当の結末かは作中で説明されず、宮崎駿監督も「見た人の感じたように受け取ってもらってかまわない」と話しています。

台詞は一言もありません。CHAGE&ASKAの曲に合わせて、映像と音楽と効果音だけで話が進みます。宮崎監督が原作・脚本・監督を務め、1995年7月15日に『耳をすませば』と同時に映画館で公開されました。

この記事では、何が起きる話なのかを順に整理したうえで、ラストが2回ある意味、翼の少女の正体、「ナウシカの前日譚」という説を、監督の言葉と照らし合わせて読みます。

On Your Markは結局どういう話なのか

ひと言でいえば、捕まった翼の少女を、2人の警官が組織に逆らって助け出し、空へ帰す話です。

舞台は、地上が放射能で汚れ、人が地下の都市で暮らすようになった未来。武装した警官隊が、怪しい宗教団体の建物に踏みこむ場面から始まります。銃撃戦のあと、建物の奥で主人公の警官2人が見つけたのが、背中に翼のある少女でした。

2人は少女を外へ運び出し、水を飲ませます。ところが少女は、すぐに研究者たちの手でカプセルに入れられ、研究のために連れて行かれてしまいます。少女のことが忘れられない2人は、パソコンと手作りの機械を使って研究所に忍びこみ、少女を取り戻しました。

逃げる車で走るのは、細くて今にも崩れそうな高架の道。そこへ警官隊の空飛ぶパトカーがぶつかり、道は壊れます。車ごと落ちていく中で少女は飛べず、3人はそのまま落ちていきます。

ここで映像は、少女を見つけた場面まで戻ります。2回目の逃走では、落ちていく車が光を放って浮き上がり、3人は地下都市の外へ抜け出しました。最後は、ためらっていた少女が2人にほほえみ、空へ飛び立っていきます。

場面1回目2回目
研究所から少女を連れ出す成功成功
高架の道が壊れる3人とも落ちていく車が光を放って浮き上がる
結末少女は飛べないまま地上に出て、少女は空へ飛び立つ

ラストが2回あるのはなぜ?どちらが本当の結末か

作品の中では説明されません。1995年の『アニメージュ』のインタビューで、宮崎監督はこう話しています。「音楽映画だから、見た人の感じたように受け取ってもらってかまわない」。そのうえで、暗号のようなものはたくさん入れているとも語りました。どちらが本当の結末かは、決められていない作品です。

そのため、2つの場面の読み方はいくつもあります。たとえば次のような読み方です。

  • やり直し説: 1回目の失敗のあと、時間が巻き戻って、2人がもう一度挑んだ
  • 願い説: 1回目が現実で、2回目は「こうであってほしかった」という2人の願い
  • 思い出し説: 少女を見つけた場面が何度か差しこまれるので、全体が警官の回想で、記憶の中で結末を選び直している

僕は、どの読み方をとっても、2回目の結末に込められたものは同じだと考えています。1回目の少女は、警官の手を離れられないまま一緒に落ちていきました。2回目の2人は少女を最後まで抱えず、自分で飛ぶのを見送ります。成功と失敗を分けたのは、助ける側が「手を離せたかどうか」だと読めます。

物語の早い段階で、オープンカーに乗った警官が少女の手をふっと離し、少女が飛び立つ場面が一度映ります。結末と同じ動きが、先に一度見せられているわけです。

翼の少女は何者なのか

正体は作中で語られません。名前もありません。

監督が描いた絵コンテには「天使」と書かれていました。ところが同じ『アニメージュ』のインタビューで、監督は「天使だとは言っていないし、鳥の人かもしれない。それはどうでもいいんです」と答えています。少女が何者かより、少女をどう扱うかのほうが、監督にとって大事だったと読めます。

作中で少女が受ける扱いを並べると、その意味が見えてきます。宗教団体に閉じこめられ、助け出されたと思ったら、今度は研究の材料としてカプセルに入れられる。どちらの側も、少女を自分たちの持ち物のように扱っているように見えます。

2人の警官だけが、少女を手元に置こうとしません。研究所から盗み出すほどの危険を冒したのに、最後は自分で飛ぶのを待ち、見えなくなるまで見送ります。大切なものを、誰の手も届かない空へ返す。この映画が描いているのは、その一点だと僕は受け取っています。

舞台はどんな世界なのか

監督が考えながら作ったのは、地表が放射能で汚れ、病気が広がる世界で生きるとはどういうことか、だったそうです。同じ年の別のインタビューでは、人が住めなくなった地上の自然は、聖域のような場所になったとも語っています。人は地下に都市を作って住むしかない、という設定です。

映像のあちこちに、その手がかりがあります。

  • 冒頭に出てくる地上には、九龍城(かつて香港にあった、建物がすき間なく積み重なった巨大な住宅群)のような建物と住宅が並んでいる
  • 黄色い大きな車や道路の標識には、放射能を示すマークが描かれている
  • 地下都市の出口近くの看板には、中国語で「注意阳光!(日差しに注意)」「不保障生命!(命の保証なし)」と書かれている

ここで注意したいのが、最後に3人がたどり着く地上が、人にとっては危ない場所だという点です。少女は空へ飛び立てますが、2人の警官はその土地に残ります。最後に車が道ばたに止まって映像が終わるのは、2人のその後を描かないためとも読めます。

ナウシカの前日譚という説は本当か

ファンの間では、「On Your Mark は『風の谷のナウシカ』の前日譚(ナウシカより前の時代を描いた話)だ」という説がよく語られます。根拠とされる点を並べると、次のとおりです。

根拠とされる点On Your Markナウシカ
汚れた地上放射能で汚れ、人は地下で暮らす腐海の毒で、人が住める土地が限られている
「鳥の人」監督が少女を「鳥の人かもしれない」と話した原作漫画で、救世主とされる伝説の「白い翼の使徒」が「鳥の人」とも呼ばれる
作られた時期1995年1月に制作が始まったとされる原作漫画の最終巻が出たのも1995年1月

似ているところは確かにあります。とくに「鳥の人」という言葉は、ナウシカの原作を読んだ人ならすぐ思い当たるはずです。

ただ、2つの作品がつながっているという公式の設定はありません。監督が「見た人の感じたように」と話しているので、前日譚として観るのも一つの楽しみ方です。

ナウシカの汚れた世界は、映画と原作漫画でも描かれ方が違います。腐海の正体や原作の結末は、ナウシカの原作漫画は映画とどう違う?で整理しました。

なぜジブリがチャゲアスの映像を作ったのか

始まりは、CHAGE&ASKAのコンサートで流すための映像でした。アニメと曲を組み合わせる案はASKAが思いつき、CHAGEが「宮崎監督に頼んでみては」と提案しました。CHAGE&ASKAの意向を受けてジブリに制作を頼んだのは、レコード会社のプロデューサーだった吉田健さんです。後に出たDVDでは、クレジットの最後に「吉田 健氏 (1955-1999)に捧ぐ。」という言葉が出ます。

当時の宮崎監督は『もののけ姫』に取りかかっていましたが、制作は順調ではなかったとされています。鈴木敏夫プロデューサーは後に、この仕事がよい気分転換になると考えて引き受けたと語りました。宮崎監督にとっては『天空の城ラピュタ』以来の本格的なSFアクションです。コンピューターで作る映像(CG)を初めて使った作品でもあります。

できあがった映像は、1995年7月にコンサートツアーの会場で初めて流されたあと、映画館でも公開されました。人気が高く、長い映画にしないかという話もあったとされています。2023年2月には、東京・調布の映画館で『耳をすませば』と一緒に、28年ぶりにスクリーンで上映されました。

『耳をすませば』を映画館で観る機会については、耳をすませば・借りぐらしのアリエッティのIMAXはいつまで?どこで?で紹介しています。

On Your Markは今どこで観られるのか

ジブリの短編を集めたDVD『ジブリがいっぱいSPECIALショートショート 1992-2016』(2019年7月17日発売)に入っています。英語の歌詞で歌われた版や、監督の絵コンテを動かした試作の映像も一緒に収められています。

2005年に出た同じ名前の短編集にも入っていましたが、2014年5月、ASKAさんの逮捕を受けて出荷が止まりました。同じころ発売予定だったブルーレイの作品集からも収録が外され、のちに購入者へ別のディスクとして配られています。今は2019年版で観られます。

ジブリ美術館の土星座では、ほかのジブリ短編が月替わりで上映されています(On Your Mark は上映作品に入っていません)。今月の作品はジブリ美術館の土星座は今月どの短編?で紹介しています。

まとめ

  • On Your Mark は、2人の警官が翼の生えた少女を研究所から助け出し、空へ放つまでを描いた6分48秒の短編
  • 高架の道から落ちる場面が2回あり、1回目は失敗、2回目は成功する。どちらが本当かは作中で説明されず、監督は「見た人の感じたように受け取ってもらってかまわない」と話している
  • 少女は絵コンテでは「天使」だったが、監督は「鳥の人かもしれない。それはどうでもいい」と答えている
  • 「ナウシカの前日譚」はファンの説で、公式の設定ではない
  • 2回目の結末で変わったのは、2人が少女の手を離して見送れたこと。僕はそこにこの映画の答えがあると考えている

参考

  • On Your Mark 作品紹介(スタジオジブリ) — https://www.ghibli.jp/works/onyourmark/
  • 『アニメージュ』1995年8月号(徳間書店)宮崎駿インタビュー
  • On Your Mark — Wikipedia — https://ja.wikipedia.org/wiki/On_Your_Mark
  • スタジオジブリ「On Your Mark」28年ぶりにスクリーンに!「耳をすませば」と期間限定の同時上映が決定(アニメ!アニメ!・2023年1月20日) — https://animeanime.jp/article/2023/01/20/74932.html

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