ラピュタのバルスはどういう意味?トルコ語で平和は本当か

「バルス」は、この映画のために作られたラピュタ語の単語です。制作時の準備稿には「シータ『バルス(とじよ)』」と書かれていました。つまり、意味は「閉じよ」。城を滅ぼす言葉ではなく、城を閉じる言葉として置かれていました。

ネット上で広く語られているのが「トルコ語で平和という意味だ」という話です。ところが、この説は『天空の城ラピュタ』の制作進行を務めた木原浩勝さんが、著書ではっきり否定しています。宮崎駿監督自身も、由来を尋ねられて意外な答え方をしていました。

この記事では、バルスの意味とトルコ語説の行方、監督自身の言葉をまとめます。あわせて「なぜあんなに短いのか」「シータはいつパズーに伝えたのか」という、観たあとに残りやすい疑問にも答えます。

「バルス」はラピュタ語で「閉じよ」だった

『天空の城ラピュタ』には、ラピュタ語という架空の言語が用意されています。ケルト語などの影響を受けて作られた人工の言葉で、劇中の呪文もこの言語です。バルスも、そのなかの一語。

意味の手がかりになるのが、制作時の準備稿です。木原さんは自著『もう一つの「バルス」』で、その記述を明かしています。そこには「シータ『バルス(とじよ)』」と書かれていました(BuzzFeed Japan 2024年8月30日)。

「とじよ」と読むと、ラストの描写がすんなりつながります。バルスを唱えたあと、ラピュタは外から壊されたのではありません。巨大飛行石を抱えた中枢そのものが内側から壊れ、崩壊が下へ広がっていきます。自分で自分を閉じた結果だと考えると、あの終わり方に説明がつきます。

劇中でこの言葉は「滅びの呪文」「滅びの言葉」と呼ばれます。ただ、それは人間の側から見た呼び名です。ラピュタという機械にとっては、自分を閉じるための命令だったのでしょう。

シータは意味を知らずに覚えていた

シータがこの言葉を知っていた理由も、作中で語られています。亡くなった祖母から、幼いころに「困った時のおまじない」として教わっていたのです。

祖母が教えたおまじないは一つではありません。飛行石を光らせる長い呪文も、同じように伝えられたものでした。シータ本人は、それがラピュタの封印を解く呪文だとは知らないまま覚えていました。滅びの言葉のほうには「決して使ってはいけない」という言い添えがついています。

家に代々伝わる言葉として残っていたから、ムスカがどれだけ探しても手に入りませんでした。この設定があるので、終盤でシータが自分から滅びの言葉を持ち出す場面が効いてきます。

「トルコ語で平和」という説は本当か

よく語られるのが、次の言い分です。バルスの語源はトルコ語の「barış(バルシュ)」で、意味は「平和」。滅びの呪文は、実は平和を願う言葉だった——という話です。

話がきれいにまとまるので広まりました。ラピュタという強すぎる力を消すことが世界に平和をもたらす、という読み方とも噛み合う。放送のたびに、SNSでも繰り返し語られています。

しかし、根拠になる公式の発言が、この説には付いていません。

前出の木原浩勝さんは、著書のなかでこの通説を正面から否定しています。BuzzFeed Japanの記事によれば、木原さんの言葉はこうです。

「バルス」という言葉は、トルコ語ではなくラピュタ語だ。つまり「平和」ではない

制作の現場で準備稿を見ていた人が、作中の架空言語だと言い切っています。これはかなり重い証言だと僕は考えています。

木原さんが挙げる「パルス」説

では、どこから来た音なのか。木原さんは、英語の「pulse(パルス)」ではないかという見方を示しています。短く走る電流や波を指す言葉です。

理由も挙げられています。準備稿や絵コンテには、ロケット艇のエンジンを説明する言葉として「パルスロケット」が出てきます。短い噴射を繰り返す仕組みのことです。

バルスの直後には、ラピュタの底を光が走る描写もあります。木原さんは、これもパルス説の裏づけに挙げました。少なくともトルコ語説より、よりどころのはっきりした見方です。

宮崎駿監督は由来をどう語っているか

肝心の監督本人はどうか。『ジブリの教科書2 天空の城ラピュタ』(文春ジブリ文庫)に収録されたインタビューで、宮崎監督はこう答えています。

何もないです。口から出まかせです。なるべく英語でもなく、日本語でもないようなものを考えるんです

拍子抜けするような答えかもしれません。でも、作り手の言葉としては筋が通っています。既存の言語から取ってしまうと、その言語を知っている人には意味が透けて見えてしまう。どこの国の言葉でもない響きだからこそ、観客は音そのものを呪文として受け取れます。

同じインタビューで監督は、これまでに読んだものの影響は受けているとして、ケルト語を挙げています。ラピュタ語がケルト語を参考に組み立てられたことと重なる話です。

ここまでを整理すると、こうなります。

出どころ裏づけ
ラピュタ語で「閉じよ」制作時の準備稿木原浩勝さんの著書に記載
英語の「pulse」から木原浩勝さんの推測準備稿・絵コンテの語と、作中の描写
トルコ語「barış」=平和ネット上で広まった話公式の発言なし。木原さんが否定

意味は「閉じよ」でほぼ固まっています。一方で由来のほうは、監督が「出まかせ」と言っている以上、答えが出ません。少なくとも、トルコ語説を事実として人に話すのは避けたほうがよさそうです。

滅びの呪文はなぜ「バルス」だけ短いのか

「滅びの呪文が三文字は短すぎないか」という疑問は、放送のたびに出てきます。実際、同じ作品に出てくるもう一つの呪文と比べると、差は歴然です。

シータが飛行石を光らせるときの呪文は、こちらです。祖母から教わった長いおまじないで、唱え終えるまでに時間がかかります。なお劇中では、この長いほうが何を意味するのかは説明されません。

呪文言葉場面
長いほうリーテ・ラトバリタ・ウルス アリアロス・バル・ネトリール飛行石が光り、ラピュタへの道を示す
短いほうバルスラピュタが機能を止め、崩れ始める

なぜ片方だけ極端に短いのか。木原さんは、脚本上の必要から来ていると説明しています。あの場面でシータとパズーは、ムスカに銃を向けられていました。長い呪文なら、唱え始めた時点で撃たれるか、口をふさがれて終わりです。

つまり、短さは設定ではなく演出の要請でした。ムスカに割り込む隙を与えない長さでなければ、クライマックスが成立しません。逆に言えば、あの三文字だからこそ、観客も「間に合った」と息を呑めます。

パズーはいつ呪文を知り、なぜ二人は無事だったのか

ここからは、作中で説明されない部分に入ります。読み方が分かれるところなので、描写と解釈を分けて書きます。

「3分間待ってやる」の間に伝わった

パズーが呪文を知る場面は、玉座の間です。ムスカは拳銃でシータの三つ編みを撃ち飛ばし、次は耳だと脅していました。そこへパズーが現れ、シータと二人だけで話す時間を求めます。ムスカが返した言葉が、あの「3分間待ってやる」でした(マグミクスの解説記事)。

この短いやり取りのあいだに、シータはパズーへ滅びの言葉を伝えます。ただし、その声は観客に聞こえない作りになっています。

「口にした時点で発動するはずでは」という疑問は、ここから生まれます。作中に答えはありません。飛行石を握り、意志を込めて唱えたときだけ働く——そう読む人もいますし、ささやき声では届かなかったと考える人もいます。どちらも作品の外側の推測です。

僕は、聞こえない演出そのものが答えだと考えています。観客に呪文の中身を伏せて二人だけの秘密にしておくから、直後に声をそろえて叫ぶ瞬間が強く響く。理屈より、あの一拍のための省略でしょう。

崩れたのは城の下半分だった

唱えたあと二人が助かる理由も、はっきりとは語られません。それでも、描写そのものは確かめられます。

崩れ落ちたのは、城の下部を占める半球体と、そのすぐ上の市街部の一部です。ムスカは崩れゆく瓦礫とともに海へ落ちていきました。

一方で、巨大な飛行石と、それを抱え込んだ大樹、そして大樹に支えられた上層部は残ります。根に掴まっていたシータとパズーは、その残った部分と一緒に浮かび上がりました。庭園のロボット兵も、崩壊のあとで動き続けています。

飛行石そのものは壊れませんでした。浮力が消えなかったから、上層部だけが空へ上がっていったわけです。作中の描写から読み取れるのは、ここまで。なぜ滅びの言葉が下部の機械だけを止めたのか、その理屈は最後まで説明されません。

作品が答えを置いていない場所に、後から「実は◯◯だった」と話が足されていきます。この構造は、トトロの都市伝説千と千尋のラストで振り返ってはいけない理由とよく似ています。空白があるほど、噂は育つものです。

放送のたびに起きる「バルス祭り」とは何だったのか

バルスという言葉が、映画の外側でも有名になった理由が「バルス祭り」です。金曜ロードショーで放送されるたび、あの場面に合わせて視聴者が一斉に「バルス」と投稿する。それだけの行事です。

規模がはっきり数字に出たのが、2013年8月2日の放送でした。ITmediaによれば、この日の秒間ツイート数は14万3199件。それまでの最高は2013年元日の「あけおめ」ツイートで3万3388件でしたから、その4倍を超えたことになります(ITmedia NEWS 2013年8月6日)。

数字を出したのは米国本社のエンジニアたちです。10人以上が金曜の夜の予定を返上して残業で集計し、翌日の土曜日にTwitter Japanの広報が公式に発表しました。一本の映画の一場面で、世界規模のサービスがそこまで動いたわけです。

放送そのものの強さも変わっていません。非公式のファンサイト集計では、2024年8月30日の放送で世帯視聴率13.7%を記録しています(ghibli.jpn.org)。1986年8月2日に公開された作品が、40年近く経ってもこの数字です。

なお、2026年は公開40周年の年にあたります。各地を巡回する金曜ロードショーとジブリ展のような企画も続いており、作品に触れる機会は映画館やテレビだけではなくなりました。

まとめ

「バルス」はラピュタ語で「閉じよ」。制作時の準備稿にそう書き添えられていました。

有名な「トルコ語で平和」という説には、公式の裏づけがありません。制作進行を務めた木原浩勝さんは著書で明確に否定し、英語の「pulse」から来た可能性を挙げています。宮崎駿監督自身は「口から出まかせ」と答えており、由来の答えは今のところ出ていません。

呪文が三文字しかないのは、ムスカに邪魔される前に唱え切る必要があったからです。シータがパズーへどう伝えたのか、なぜ二人が無事だったのかは、作中で説明されないまま残されています。

分かっていることと、分かっていないこと。その線を引いておくと、次に観るときの見え方が少し変わるはずです。

参考

  • 【天空の城ラピュタ】バルスの由来は?「トルコ語で平和」の通説を制作スタッフは否定(BuzzFeed Japan・2024年8月30日) — https://www.buzzfeed.com/jp/keitoarai/balus-wthat-is-the-origin
  • 木原浩勝『増補改訂版 もう一つの「バルス」 ―宮崎駿と『天空の城ラピュタ』の時代―』(講談社文庫・2018年) — https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000313326
  • 『ジブリの教科書2 天空の城ラピュタ』(文春ジブリ文庫)所収の宮崎駿インタビュー
  • “バルス祭り”その時Twitterの中の人たちは──日本と米本社をまたいだ舞台裏(ITmedia NEWS・2013年8月6日) — https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1308/06/news057.html
  • 飛行石(バルス発動時の描写と崩壊の範囲) — https://ja.wikipedia.org/wiki/飛行石

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