湯婆婆のモデルは鈴木敏夫?宮崎駿が夏木マリに頼んだ演じ方

湯婆婆のモデルが鈴木敏夫プロデューサーだと言われるのは、宮崎駿監督が湯婆婆の声を演じた夏木マリさんに、鈴木さんを例にして役を説明したからです。お金の勘定をしているから悪く見えるけれど、一生懸命働いている人。そういう人として演じてほしい、という注文でした。正確には「モデル」というより、演じ方のたとえとして名前が出た、という話です。

夏木さんはこの話を、2019年・2021年・2026年と、場を変えて何度も明かしています。鈴木さん本人は「たいした問題じゃない」と受け流しつつ、油屋を経営する湯婆婆と、ジブリを経営する自分を重ねたのだろう、と話しました。

この記事では、宮崎監督が夏木さんに何を伝えたのか、鈴木さんの受け止め方、そしてこの話を知ったうえで湯婆婆がどう見えてくるかを整理します。

湯婆婆のモデルは本当に鈴木敏夫なのか

正しくは「湯婆婆の演じ方を説明するとき、宮崎監督が鈴木敏夫さんを例に出した」です。夏木さんが語っているのは、どれも演じ方の注文の話でした。画面の中の大きな頭の魔女と、ジブリ作品の宣伝で表に出てくる鈴木さんがすぐに結びつかず、驚く人が多いのもそのためです。

夏木さんがこの話を明かした場の一つが、2019年4月、東京の神田明神ホールで開かれた「鈴木敏夫とジブリ展」の内覧会でした。夏木さんによると、宮崎監督の言葉は次のようなものでした。

ジブリは鈴木敏夫というのが金勘定をしている。だから悪役だと思って張り切ってやらず(湯屋の)油屋を立て直す一人の女性として、働く女性としてやってください

この一言で「鈴木さんの女版でやればいいんだ」と思い、演じるのが楽しくなった、と夏木さん。悪役の芝居を考えていた人が、身近な一人に置き換えて役をつかみ直したわけです。

宮崎駿監督は夏木マリに何を注文したのか

夏木さんは2021年11月、舞台『千と千尋の神隠し』の製作発表会見でも、同じ話をより詳しく語りました。この舞台で夏木さんは、映画から20年ぶりに湯婆婆と銭婆を演じることになっていました。

映画の声を入れに行ったとき、夏木さんは湯婆婆を「ステレオタイプの悪役」だと思っていたそうです。悪役は演じていて楽しいので、準備をして張り切って臨んでいました。そこに宮崎監督から届いたのが、次のような注文です。

湯婆婆も一生懸命仕事をして、湯屋を守っているおばちゃんとしてやってください

この言葉の前に、宮崎監督は鈴木さんのことを「悪い人ではない」「一生懸命仕事をしている人間」と説明しています。お金の勘定をしているので、人によっては悪く見える。それでも一生懸命働いている。その姿を湯婆婆に重ねてほしい、というのが注文の中身でした。

2026年4月19日放送の日本テレビ系「おしゃれクリップ」でも、夏木さんはこの注文を振り返り、悪役のことは考えずに「鈴木敏夫さんだと思ってやってました」と話しました。7年のあいだに3度、同じ中身の話をしていることになります。それだけ大きな一言だったのでしょう。

夏木さんは声を一人で録っていたため、ほかの役の声とのつり合いが分からず、不安なまま帰ったそうです。完成した映画を観て、ちょうどいい具合に仕上がっていたことに感動したとも明かしています。

鈴木敏夫本人はどう受け止めているのか

2019年の内覧会には鈴木さんも同席していて、夏木さんの話を受けてこう答えました。

それはたいした問題じゃない。ジブリを経営しているのは僕。それでいうと油屋を経営しているのは湯婆婆だから、鈴木さんだと思ってということを(宮崎監督が)声を演じる夏木さんに言ったんだと思います

鈴木さんは、『千と千尋の神隠し』そのもののプロデューサーです。スタジオジブリの作品紹介でも、プロデューサーの欄に名前が載っています。作品のお金と宣伝を預かる立場の人が、作中で湯屋のお金を握る魔女にたとえられたことになります。

それでも、自分がモデルかどうかは「たいした問題じゃない」の一言で片づけています。そのうえで、宮崎監督が名前を出した理由を「経営者どうし」という一点で説明しました。お金を集め、人を雇い、会社を回す人を、宮崎監督は悪人ではなく働き者として見ていたのでしょう。その身近な例が鈴木さんだった、と読めます。

湯婆婆の声に夏木マリを選んだのは誰か

2026年の「おしゃれクリップ」には鈴木さんもVTRで登場し、夏木さんが選ばれたいきさつを明かしています。

宮崎監督と二人で「湯婆婆だれにやってもらうか」と話していたときのこと。近くにいた若い女性が「夏木さん」と言い出し、鈴木さんは大賛成したそうです。宮崎監督も「鈴木さんがいいって言うならいいよ」と応じました。たとえに使われた鈴木さん本人が、湯婆婆の声を選んだ一人でもあったわけです。

同じ番組で夏木さんは「油屋の鈴木敏夫さんですからね、湯婆婆、銭婆は」とも話しています。宮崎監督の注文の言葉は湯婆婆に向けたものでした。ただ、夏木さんは双子の姉の銭婆の声も一人で演じていて、本人の中では二人とも鈴木さんだったことになります。

「経営者」として見ると湯婆婆はどう見えるか

湯婆婆は、油屋という大きな湯屋を切り盛りする経営者です。千尋が働かせてほしいと頼みに来たとき、湯婆婆は最初こそ追い返そうとしますが、最後には契約書を出して雇います。名前を奪う怖い場面でもありますが、働きたいと頼んだ者を、きちんと雇っています。

油屋の中での湯婆婆は、客を迎え、もうけを数え、働き手を叱ります。乱暴に見えても、やっていることは店を回すことです。夏木さんが2019年に語った「お金勘定をしているから悪い人に見えるけど、愛はあるよ」という人間像は、ここにつながります。

僕は、湯婆婆の怖さと面白さは、この二つが同じ人の中にあるところだと考えています。千尋から名前を取り上げる魔女であり、同時に大勢の働き手を抱えて店を守る経営者でもある。どちらか一方だけなら、もっと分かりやすい悪役か、ただの気のいい女将になっていたはずです。「悪役だと思って張り切らないで」という注文は、悪役の部分を消すためのものではなかったと読んでいます。経営者としての顔を、声の中に残すためだったのでしょう。

双子の姉の銭婆とどう違うのかは、湯婆婆と銭婆の違いは?で比べています。

まとめ

  • 湯婆婆のモデルが鈴木敏夫と言われるのは、宮崎駿監督が声の夏木マリさんに、鈴木さんを例に役を説明したから
  • 監督の注文は、悪役だと思って張り切らず、一生懸命仕事をして湯屋を守っているおばちゃんとして演じること
  • 鈴木さん本人は「たいした問題じゃない」として、油屋とジブリの経営者どうしを重ねたのだろうと受け止めている
  • 経営者として観ると、名前を奪う魔女の顔と、働き手を抱えて店を守る顔が、同じ人の中にあると分かる

『千と千尋の神隠し』が全体として何を描いた映画なのかは、千と千尋の神隠しは結局何を伝えたい話?でまとめています。ハクの竜の大きな立体造型物が初めて公開された展示については、ジブリパークは大阪にできる?ジブリパーク展は本体とどう違うのかで整理しています。

参考

  • 夏木マリ:湯婆婆は鈴木Pをイメージ「女版でやればいい」 宮崎駿監督の助言で — MANTANWEB(2019年4月19日) — https://mantan-web.jp/article/20190419dog00m200021000c.html
  • 夏木マリ、宮崎駿監督のオーダーに感動 湯婆婆は”悪”ではなく「湯屋を守るおばちゃん」 — ORICON NEWS(2021年11月10日) — https://www.oricon.co.jp/news/2213205/full/
  • 「湯婆婆」演じた夏木マリ、宮﨑駿監督からの驚きの”指示”明かす — スポーツ報知(2026年4月21日) — https://hochi.news/articles/20260420-OHT1T51277.html
  • 千と千尋の神隠し 作品紹介(スタジオジブリ) — https://www.ghibli.jp/works/chihiro/

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