『ハウルの動く城』のサリマンは、王室付きの魔法使いで、魔法学校の校長でもある老婦人です。そしてハウルの元師匠。悪魔と契約して自分のもとを去ったハウルを、国の仕事に呼び戻そうとしている人物です。
ハウルを追い回すので敵に見えますが、ただの悪役ではありません。ハウルが戻らないなら魔力を取り上げると迫る一方で、最後には自分から戦争を終わらせる側に回ります。
この記事では、サリマンが何者なのか、なぜハウルを狙うのか、戦争の黒幕なのかを順に整理します。使いの犬ヒンや小姓たちの役目、原作では男性の魔法使いだったこと、声を演じた加藤治子さんまで扱います。
サリマンの正体は?何者なのか
サリマンは、王に仕える魔法使いの中でいちばん上にいる人物です。映画の中で分かる立場を並べると、次のようになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 立場 | 王室付きの魔法使い。魔法学校の校長 |
| ハウルとの関係 | 元師匠。ハウルからは「マダム・サリマン」と呼ばれる |
| 見た目 | 銀髪をまとめた、車椅子の老婦人 |
| 仕える者 | 使いの犬ヒン、同じ顔をした金髪の小姓たち |
| 声 | 加藤治子 |
物腰はやわらかく、ソフィーにも丁寧に話します。それでいて、ハウルより強い魔力の持ち主。王宮の場面では荒地の魔女の魔力を抜き取り、助けに来たハウルも魔法で追い詰めます。
国の中での力も大きく、ラストでは「総理大臣と参謀長を呼びなさい」と命じています。王の下にいながら、政治や戦争の中心にいる人だと読めるセリフです。
なぜサリマンはハウルを狙うのか
火の悪魔カルシファーと契約したまま、自分のもとを去ったからです。ハウルは、サリマン自身が後継ぎにと期待していたと語るほど才能のある弟子でした。
サリマンがハウルに出した条件は、はっきりしています。
- 国に協力するなら、悪魔と手を切る方法を教える
- 協力しないなら、魔力を取り上げる
サリマンは、悪魔との契約を続けたハウルが、やがて人の心をなくした魔王のようになるとハウルに告げています。同じ部屋にいた荒地の魔女は、その行き着く先を見せる役だったとも読めます。荒地の魔女も昔、悪魔と取引をした魔女でした。サリマンに魔力を抜かれると、ただのおばあちゃんに戻ってしまいます。
ハウルは呼び出しから逃げ続け、ソフィーに自分の母親のふりをさせて王宮へ行かせます。ソフィーはサリマンの前でハウルをかばいますが、サリマンは引きません。協力しないと決めたハウルを魔法で襲い、そのあとも居場所を探し続けます。ハウルが城の入口を帽子屋に移して引っ越すのは、このサリマンの目から隠れるためです。
僕は、サリマンの狙いを「ハウルを罰したい」よりも「手元に取り戻したい」と読んでいます。魔力を奪うと脅しながら、まず差し出しているのは悪魔と手を切る方法でした。師匠として、弟子が戻ってくる道を先に用意しているからです。
サリマンは戦争を起こした黒幕なのか
作中に「サリマンが戦争を起こした」とはっきり示す場面はありません。黒幕だという読みはファンの間で根強いのですが、根拠になるのは状況だけです。
黒幕説の材料になっているのは、次のような点です。
- 王の後ろで国を動かしているように見える
- 戦争を口実に、魔法使いたちを国の仕事に集めている
- 戦争の相手は隣国なのに、その隣国の王子に誰が呪いをかけたのかは語られない
最後の点は特に引っかかるところです。カカシのカブの正体は、呪いをかけられていた隣国の王子でした。王子が行方不明になったことが戦争の原因の一つだとすると、「呪いをかけたのはサリマンでは」と考えたくなります。ただ、映画は呪いの主を明かしません。
はっきり描かれているのは、サリマンが戦争を終わらせる側に回ることです。カブが人間に戻り、国へ帰って戦争を終わらせると言うのを、サリマンはヒンの送る映像で見ています。その映像を見たサリマンは、ばかげた戦争を終わらせようと口にします。
王子は国へ帰り、ハウルも悪魔との契約から自由になりました。僕はこの流れを見て、サリマンには戦争を続ける理由がもう残っていなかったのだと受け取っています。戦争を始めた人というより、戦争を利用してハウルを呼び戻そうとしていた人です。戦争の相手や理由そのものは、ハウルが意味わからないのはなぜ?結局どういう話かを順に整理でまとめています。
犬のヒンと小姓たちは何者なのか
ヒンは、サリマンの使い魔の犬です。王宮へ向かうソフィーについてきて、そのまま動く城に住みつきます。ソフィーは初め、ヒンをハウルが化けた姿だと思っていました。
ヒンの役目は見張りです。見たものをサリマンの水晶玉に送れるので、城の様子はサリマンに筒抜けでした。それなのに、ソフィーたちとの暮らしにすっかりなじんでしまいます。ラストでサリマンが映像の中のヒンに「浮気者」と言うのは、そのためです。
老犬で階段もまともに上れませんが、耳をはばたかせて空を飛べます。「ヒン」という鳴き声は、声を担当した原田大二郎さんによると、ぜんそくのような苦しい咳を思い浮かべて出した声だそうです。モデルは、宮崎駿監督と古くからつきあいのある押井守監督だという話もあります。
サリマンのそばには、おかっぱ頭の金髪の小姓たちもいます。同じ顔の少年が4人以上いて、全員がサリマンに仕える者たち。同じ顔がいくつも並ぶので、王宮のどこにいてもサリマンの目が届いているように見えます。
サリマンは、ソフィーの家族まで見張りに使っています。ソフィーの継母ファニーが帽子屋を訪ねてくるのも、実はサリマンの命令でした。ファニーは気がとがめながらも、のぞき見のための虫を入れた巾着袋を置いていきます。荒地の魔女がその虫を見つけてカルシファーに食べさせたことで、サリマンの見張りは途切れました。
原作のサリマンはどんな人物なのか
原作のサリマンは、映画とはまったくの別人です。原作は、イギリスの作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズが1986年に書いた小説『魔法使いハウルと火の悪魔』(日本語訳は1997年)。こちらのサリマンは男性の王室付き魔法使いで、本当の名前はベン・サリヴァンといいます。
| 項目 | 映画のサリマン | 原作のサリマン |
|---|---|---|
| 性別 | 女性(老婦人) | 男性 |
| 本当の名前 | 語られない | ベン・サリヴァン |
| ハウルとの関係 | 師匠 | 同じ先生に教わった先輩 |
| 物語での役 | ハウルを追う側 | 行方不明になり、助けられる側 |
原作のベン・サリヴァンは、ハウルと同じくウェールズ(イギリス)から来た人です。2人を教えた先生は、ペンステモン夫人という年老いた魔女。サリヴァンはその先生の、ハウルの一つ前の弟子でした。
物語の中では、王の命令で荒地の魔女を退治しに行き、そのまま行方不明になります。魔女に捕まったサリヴァンは、自分の魔力のほとんどをカカシに移しました。体はばらばらにされ、同じく行方不明になった王の弟ジャスティン王子の体と組み合わされてしまいます。ソフィーを追いかけてくるカブ頭のカカシは、原作ではサリヴァンの魔力の入れ物だったわけです。
最後は魔女の火の悪魔が倒され、サリヴァンもジャスティン王子も元に戻ります。そのあとサリヴァンは、ソフィーの妹レティーを弟子に取りました。
映画のサリマンは、名前と「王室付き魔法使い」という立場を原作から受け継いでいます。ただ、人物像はむしろ原作の先生ペンステモン夫人に近いとされます。ペンステモン夫人は、ハウルが荒地の魔女と同じ道をたどることを心配していた先生でした。ハウルの才能を認め、悪魔との契約を案じる姿は、映画のサリマンとそのまま重なります。
映画は、原作の「行方不明の魔法使い」と「心配する先生」を1人にまとめ、ハウルを追う強い相手に作り変えたことになります。原作との違いは荒地の魔女にも大きく出ていて、ハウルの荒地の魔女はなぜおばあちゃんに?若い頃の姿は原作だけで整理しています。
サリマンの声は誰で、何歳なのか
サリマンの声は、女優の加藤治子さんです。1922年生まれで、『ハウルの動く城』が公開された2004年には81歳でした。ジブリ作品では『魔女の宅急便』(1989年)にも出ていて、キキにニシンのパイの配達を頼む老婦人を演じています。加藤さんは2015年に亡くなりました。
一方、サリマン本人の年齢は、映画の中では語られません。分かるのは、銀髪の老婦人で、ハウルの師匠だったことくらいです。
笑みを崩さないおだやかな声で、「魔力を取り上げる」という厳しい中身を告げる。その落差が、サリマンが怖いと言われる理由だと僕は考えています。
まとめ
- サリマンは王室付きの魔法使いで魔法学校の校長、ハウルの元師匠
- ハウルを狙うのは、悪魔と契約して去った弟子を呼び戻すため。戻れば悪魔と手を切る方法を教え、戻らなければ魔力を奪うと迫った
- 戦争を起こした黒幕という説はあるが、作中に根拠はない。描かれているのは、最後に戦争を終わらせる側に回る姿
- 犬のヒンや小姓たちは見張り役。ヒンはソフィーたちになつき、「浮気者」と言われる
- 原作のサリマンは男性のベン・サリヴァンで、映画の人物像は原作の先生ペンステモン夫人に近い
ハウルの城は、愛知県のジブリパーク「魔女の谷」に高さ約20mの建物として建てられています。入れるかどうかは券の種類で決まるので、行くならジブリパークのチケット7種類の違いで確かめておくと安心です。
参考
- ハウルの動く城 作品紹介(スタジオジブリ) — https://www.ghibli.jp/works/howl/
- ハウルの動く城 — Wikipedia(サリマン・ヒンの項) — https://ja.wikipedia.org/wiki/ハウルの動く城
- ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『魔法使いハウルと火の悪魔』(西村醇子訳、徳間書店、1997年)


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