『もののけ姫』でアシタカが乗っているヤックルは、「アカシシ」と呼ばれる大きなカモシカです。今はもう絶滅したという設定の、架空の動物。名前に「シシ」とつき見た目も鹿に近いのですが、設定上は鹿ではなくカモシカの仲間です。
モデルになった動物は、公式には明かされていません。ただ「ヤックル」という名前と姿には元があり、宮崎駿監督が1983年に出した絵物語『シュナの旅』に、同じ名前の乗り物の動物が出てきます。
気になるその後ですが、ヤックルは物語の最後まで死にません。矢で受けた傷もシシ神の力で治り、アシタカのそばに残ります。この記事では、ヤックルがどんな動物なのか、モデルや名前の元はどこにあるのか、アシタカがなぜ馬ではなくヤックルに乗るのかと、ラストのその後を整理します。
ヤックルは何の動物なのか
ヤックルの種類は「アカシシ」です。劇場パンフレットなどでは、大きなカモシカの仲間で、今は絶滅した動物として紹介されています。つまり、昔の日本にはいたことになっている、作品の中だけの生き物です。
作中の姿から分かる特徴を並べると、次のようになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 種類 | アカシシ(大きなカモシカの仲間) |
| 体 | 赤茶色の毛、頭に大きな角 |
| 言葉 | 人の言葉は話さない |
| 飼い主 | エミシの村の少年アシタカ |
| 役目 | 乗り物。エミシの一族は昔からアカシシに乗ってきた |
『もののけ姫』には、モロや乙事主のように人の言葉を話す獣の神がたくさん出てきます。ヤックルはその中で、言葉を話さない普通の動物の側です。それでもアシタカの言うことはよく分かっています。
名前の「シシ」は、昔の日本語で鹿や猪のような獣をまとめて呼ぶ言葉です。シシ神の「シシ」と同じ言葉が入っているので、森の神と関係があるのかと思う人もいるでしょう。ただ、作中でヤックルとシシ神を結びつける説明はありません。ヤックルは、あくまでアシタカの村で飼われていた乗り物の動物です。
ヤックルのモデルになった動物はいるのか
設定上は「大きなカモシカ」ですが、どの動物を元に描いたかは明かされていません。ファンのあいだでは、ニホンカモシカのほかに、ヤクシカ(屋久島にすむ小さなシカ)やアイベックス(大きな角を持つ野生のヤギ)などが候補に挙がります。ただ、どれも見た目から考えた候補で、制作側が名前を出したものではありません。
むしろ、ヤックルの元をたどるなら、宮崎監督自身の作品を見るほうが近道です。
名前と姿の元は『シュナの旅』
『シュナの旅』は、宮崎監督が1983年に徳間書店のアニメージュ文庫から出した、全ページカラーの絵物語です。チベットの民話「犬になった王子」を元にしていて、貧しい谷の国の王子シュナが、国を救う穀物の種を求めて旅に出ます。そのシュナが乗っている動物が「ヤックル」です。
ただし、2つの作品で「ヤックル」の意味は少し違います。
- 『シュナの旅』のヤックル: 動物の種類の名前。「馬」や「牛」と同じ一般の呼び名
- 『もののけ姫』のヤックル: アシタカが乗る1頭のアカシシにつけられた名前
『シュナの旅』に出てきた動物の名前を、14年後の『もののけ姫』で1頭の名前にした、ということです。旅をする若者が大きな角の動物に乗る姿も、2つの作品でよく似ています。
ナウシカの漫画にも似た動物がいる
宮崎監督の漫画版『風の谷のナウシカ』の最終巻には、人の背丈ほどもある、大きな角を持ったヤギたちが出てきます。そのうち1頭は「ケスト」という名前で、人の言葉を話します。ヤックルと形がよく似ている、と指摘される動物たちです。
宮崎監督の作品では、同じ生き物が形や名前を変えて別の作品に出てきます。たとえば『シュナの旅』の「ミノノハシ」という鳥のような生き物は、漫画のナウシカや『天空の城ラピュタ』『もののけ姫』に顔を出しています。ヤックルもその1頭だと僕は考えています。現実の1種類の動物を写したのではなく、監督が長く描いてきた「人が乗る角の生えた獣」を形にしたものです。
アシタカはなぜ馬ではなくヤックルに乗るのか
アシタカの一族が、昔からアカシシに乗ってきたからです。エミシの村ではアカシシが乗り物として飼われていて、作中でもヤックルのほかに村のアカシシが描かれています。アシタカにとっては、馬よりアカシシのほうが当たり前の相棒でした。
一方、旅の途中で出会う侍たちは馬に乗っています。村の外の人々は馬に乗り、アシタカは彼らが見たこともないアカシシに乗っている。この違いから、アシタカが遠い東の果てから来た人だと読み取れます。
僕は、物語の時代設定にも意味があると考えています。『もののけ姫』の舞台は室町時代ごろの日本で、アカシシは「今は絶滅した」動物とされています。人間が森を切り開き、獣の神たちが追い詰められていく物語です。主人公が乗るのも、やがて消えていく側の動物だと読めます。
作中でヤックルはどんな働きをしたのか
ヤックルは旅の始まりから終わりまでアシタカと一緒にいて、乗り物のほかにも大事な役目を持っています。
村を出る旅と、2度の矢傷
ヤックルは、村を襲ったタタリ神にアシタカが矢を放つ冒頭の場面から登場します。呪いを受けて村を出るアシタカと一緒に旅立つのも、ヤックルです。
旅の途中、村を襲う侍たちとの戦いに巻き込まれた場面では、侍の放った矢がヤックルの足に刺さります。物語の終盤、アサノ軍の侍との戦いでも、ヤックルは矢を受けて傷を負いました。
ジコ坊と並んで走る
制作のときには、ヤックルが走る動きをコマごとに分けた図まで用意されていました。それほど作画で大事にされた走りです。旅の途中で出会うジコ坊は、太った体つきなのに足が速く、そのヤックルと並んで走れるほど身軽。ヤックルの速さが、ジコ坊の身のこなしを見せる物差しにもなっています。ジコ坊がどんな人物なのかは、ジコ坊の正体は?師匠連の一員がシシ神の首を狙った理由で整理しています。
サンやモロの子たちとも親しくなる
物語が進むと、ヤックルはサンやモロの子どもの山犬たちとも親しくなります。山犬は本来、ヤックルのような獣を襲う側です。山犬の子とヤックルが同じ場所で落ち着いている姿は、アシタカが人と森のどちらの側にも立っていることと重なります。
ラストでヤックルはどうなったのか
ヤックルは死にません。最後まで生き残り、アシタカのそばにいます。
物語の終わりに、シシ神は首を返されて消え、山には緑が戻ります。このときシシ神の力は、アシタカの右腕の呪いやタタラ場のけが人を治しました。アサノ軍の侍の矢で傷ついていたヤックルも、ここで治っています。
そして最後の場面で、アシタカはサンにこう言います。
共に生きよう。会いに行くよ、ヤックルに乗って。
アシタカはタタラ場で暮らし、サンは森で暮らす。2人は別々の場所に住むことになりますが、そのあいだを行き来するのがヤックルです。僕は、このセリフでヤックルの名前が出ることに意味があると読んでいます。
村を出たときから一緒だったヤックルが、これからは人の暮らしと森をつなぐ足になる。物語のその後は描かれませんが、アシタカがヤックルに乗って森へ通う姿は、セリフから自然に思い描けます。
ラストの場面全体の意味はもののけ姫のラストの意味|シシ神はなぜ死ぬ?痣と結末を解説で、アシタカのもう一つの大事な言葉はもののけ姫「生きろ」の意味は?糸井重里のコピーとアシタカのセリフで読めます。
まとめ
- ヤックルは「アカシシ」と呼ばれる大きなカモシカ。今は絶滅したという設定の架空の動物で、赤茶色の毛と大きな角を持つ
- モデルの動物は公式には明かされていない。名前と姿の元は、宮崎監督の絵物語『シュナの旅』(1983年)に出てくる乗り物の動物「ヤックル」
- アシタカが馬でなくヤックルに乗るのは、エミシの一族が昔からアカシシに乗ってきたから
- 侍の矢で傷を負うが、ラストでシシ神の力によって治り、最後までアシタカのそばにいる
- 「会いに行くよ、ヤックルに乗って」の言葉どおり、その後は森とタタラ場をつなぐ足になる
参考
- もののけ姫 作品紹介(スタジオジブリ) — https://www.ghibli.jp/works/mononoke/
- もののけ姫 — Wikipedia(ヤックル・シシ神の項) — https://ja.wikipedia.org/wiki/もののけ姫
- 宮崎駿『シュナの旅』(徳間書店 アニメージュ文庫、1983年)

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