『風の谷のナウシカ』のクシャナの正体は、トルメキア王国のヴ王の4番目の娘で、軍を率いる皇女です。設定では25歳。映画では巨神兵を使って腐海を焼こうとする侵略者ですが、原作の漫画では最後に王位を譲られ、それでも王にならなかった人物として描かれます。
映画の終盤、クシャナは王蟲の群れに向けて巨神兵に「薙ぎ払え!」と命じます。ジブリ作品の中でも特に知られた場面です。ただ、映画だけでは、この人がどんな過去を持ち、何を背負っているのかはほとんど分かりません。
この記事では、クシャナが何者で何歳なのか、「薙ぎ払え」の場面で何が起きたのか、義手を見せて言ったセリフの意味、そして漫画でのその後を順に整理します。
クシャナは何者で、何歳なのか
クシャナは、大国トルメキアの皇女です。父はヴ王で、クシャナはその4番目の皇女にあたります。年齢は、設定では25歳。16歳のナウシカより9つ上です。
肩書きは「皇女」でも、宮殿で暮らす姫ではありません。王の親衛隊である第3軍の最高指揮官として、自ら戦場に立つ人です。兵からの信頼は厚く、ファンの間でも「クシャナ殿下」の呼び名で親しまれています。
映画でのクシャナの役回りは、はっきりしています。ペジテの地下から掘り出された巨神兵を奪い、運ぶ途中で船が風の谷に落ちたため、そのまま谷を占領しました。目的は、巨神兵をよみがえらせて腐海を焼き払うこと。腐海さえなくなれば人は生きていける、という考えです。
ナウシカは腐海を焼くことに反対します。二人は「腐海とどう向き合うか」で正反対の答えを持っていて、その対立が映画の軸の一つになっています。
| 映画 | 漫画 | |
|---|---|---|
| 立場 | 風の谷を占領する侵略軍の司令官 | 王家に命を狙われながら戦う皇女 |
| 巨神兵 | よみがえらせて腐海を焼こうとする | 巨神兵と旅をするのはナウシカの側 |
| ナウシカとの関係 | 最後まで対立する側 | 敵対と共闘を繰り返し、関係が変わる |
| 結末 | 谷から引き揚げる | 王位を譲られるが即位しない |
映画でクシャナの声を演じたのは、榊原良子さんです。低く落ち着いた声が、皇女らしい冷たさと強さを出しています。
「薙ぎ払え」はどの場面で、何が起きたのか
映画のクライマックスです。怒り狂った王蟲の大群が、風の谷へ押し寄せてきます。クシャナはまだ完成していない巨神兵を起こし、群れに向けて「薙ぎ払え!」と命じました。
巨神兵は口から光を放ち、1発目は王蟲の群れを焼き払います。ところが2発目を撃つころには、巨神兵の体はすでに崩れ始めていました。2発目はほとんど効かず、巨神兵はそのまま溶け落ちてしまいます。そばにいた参謀のクロトワが「腐ってやがる。早すぎたんだ」とつぶやくのが、この場面です。
つまり「薙ぎ払え」は、クシャナが一番頼りにした力が、目の前で役に立たなくなる場面でもあります。巨神兵は早く起こしすぎて、体が持ちませんでした。王蟲の群れを止めたのは巨神兵ではなく、最後に群れの前に降り立ったナウシカです。
「焼き払え」と覚えている人も多いセリフです。命令の言葉は「薙ぎ払え(なぎ払え)」で、腐海を「焼き払う」のがクシャナの目的でした。二つが混ざって記憶されやすいのだと思います。
義手を見せたセリフはどういう意味か
映画のクシャナは、左腕が義手です。蟲に襲われて体の一部を失ったことを明かし、鎧の下の腕を見せたあと、こう言います。
我が夫となる者はさらにおぞましき物を見るだろう
言葉どおりに受け取ると、「夫になる人は、この腕よりもっとひどいものを見ることになる」という意味です。左腕のほかにも、体に傷が残っていることをうかがわせるセリフです。
僕は、このセリフを強がりではなく、クシャナが自分の体を隠さないための言葉だと読んでいます。蟲に体を奪われたからこそ、腐海と蟲を焼き払いたい。義手を見せることで、クシャナの言う「腐海を焼く」は理屈ではなく、自分の痛みから来ていると分かります。
義手は映画だけの設定で、漫画のクシャナにはありません。2時間の映画でクシャナの過去を語る余裕はないため、この一場面で「なぜ腐海を焼きたいのか」を観客に伝えたのでしょう。
漫画のクシャナはどんな人なのか
漫画のクシャナは、映画とはまるで違う重さを背負っています。
いちばん大きいのは、母のことです。クシャナが幼いころ、王位を争う兄たち(3人の皇子)の側の者が、クシャナに心を狂わせる毒を飲ませようとしました。母はその毒を身代わりに飲み、心を病んでしまいます。クシャナが父と兄たちに強い憎しみを向けるのは、この出来事があるからです。
父のヴ王も、兄たちも、クシャナを守ってはくれません。むしろ戦場で命を落とすことを望まれています。その中でクシャナが頼れるのは、自分に従う第3軍の兵たちだけです。戦場では容赦がないのに、自分の兵は決して見捨てない。部下がクシャナを慕う理由はそこにあります。
漫画には、この「夫」の言葉が現実になりかける話もあります。土鬼の王はクシャナを捕らえ、トルメキアの王位を継ぐ権利と第3軍を持参金にした結婚を迫ります。二つの国を一つにまとめるための結婚で、クシャナの気持ちは関係ありません。結局この結婚は実現しませんが、母が毒を飲まされた件も含め、クシャナの体と立場は、いつも誰かの取引の材料にされてきました。
ナウシカとの関係も、映画のように一度きりの対立では終わりません。敵として出会い、助け合い、ときにぶつかりながら、少しずつ互いを認め合う関係に変わります。
映画と漫画で人物がどう違うのかは、ナウシカの原作漫画は映画とどう違う?でも比べています。
漫画のその後、クシャナはどうなったのか
物語の最後、クシャナは死の間際の父ヴ王から王位を譲られます。ところが、最後まで王の位にはつきませんでした。王の代わりに国を治める「代王」となり、後の世では「トルメキア中興の祖」と呼ばれるようになります。中興の祖とは、傾いた国をもう一度立て直した人のことです。
漫画は、即位しなかった理由を細かく語りません。それでも流れを追うと、筋は通ります。クシャナが憎んできたのは、母を壊した王家そのものでした。その王の椅子に座ることを、クシャナが望んでいたとは読みにくいところです。
僕は、「代王」という選び方に、クシャナが戦場で身につけた考え方が出ていると考えています。王という肩書きより、自分の兵と国の人々を生かすほうを選んだのです。映画で巨神兵に「薙ぎ払え」と命じ、腐海を焼こうとしていた人が、最後には国を立て直す側に回ったことになります。
そこに至るまでに、クシャナは大きなものを失っています。最後の争いの中で、ナウシカの師であるユパが、土鬼の兵の刃からクシャナをかばって命を落としました。この死をきっかけに、トルメキアと土鬼の生き残りは争いをやめ、憎しみで戦ってきたクシャナも、憎しみを終わらせる側に回ります。
漫画の結末まで知りたい人には、2019年12月に新橋演舞場で初演された新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』もあります。漫画全7巻の物語を昼と夜の通し上演で描き、クシャナは中村七之助さんが演じました。
まとめ
- クシャナはトルメキア王国のヴ王の第4皇女で、設定では25歳。第3軍を率いる司令官です
- 「薙ぎ払え」は映画の終盤、王蟲の群れに巨神兵を向けた場面。巨神兵は早く起こしすぎて、2発目のあと崩れ落ちました
- 義手を見せて言う「我が夫となる者は〜」は、腕のほかにも傷があることをうかがわせる、映画だけのセリフです
- 漫画では、母を毒で壊された過去を背負い、最後は王位を譲られながら即位せず「代王」として国を立て直しました
2026年8月には、愛知県がジブリパークにナウシカの世界を表す施設を作る計画を発表しました(2026年10月時点で完成時期は未定)。今のパークのチケットの選び方は、ジブリパークのチケット7種類の違いにまとめています。
参考
- 風の谷のナウシカ 作品紹介(スタジオジブリ) — https://www.ghibli.jp/works/nausicaa/
- 風の谷のナウシカの登場人物 — Wikipedia(クシャナの項) — https://ja.wikipedia.org/wiki/風の谷のナウシカの登場人物
- 新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』上演決定(歌舞伎美人) — https://www.kabuki-bito.jp/news/5186

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