『天空の城ラピュタ』のドーラの夫は、映画に一度も出てきません。名前も、夫について話すセリフもありません。設定資料集ではすでに亡くなった天才科学者とされ、小説版ではタイガーモス号やフラップターを作った人として描かれています。
3人の大きな息子がいるのに、父親の影がまったくない。放送のたびに「ドーラの旦那はどこにいるの?」「なぜいないの?」と気になる人が多いのは、このためでしょう。
この記事では、夫について作中で分かること、設定資料や小説版に書かれていること、なぜ映画では描かれないのかを順に整理します。あわせて、若い頃のドーラと3人の息子の年齢も見ます。
ドーラの夫は作中に出てくるのか
出てきません。映画の中で、ドーラの夫が画面に映る場面はひとつもありません。
ドーラ一家は、ドーラと3人の息子、それに機関長のじいさんや手下の男たちで空を飛んでいます。息子たちはドーラを「ママ」と呼び、ドーラの指図で動きます。家族の中で父親について話す人はいません。生きているのか、亡くなったのか、別れたのかも、映画だけでは分かりません。
それでも、観た人が夫の存在を意識する手がかりはあります。3人の息子がいること自体がそうです。ドーラの私室には、若い頃のドーラの肖像画も掛かっています(後の節で触れます)。一家の過去を感じさせるものはあるのに、父親の姿だけが抜けているわけです。
ドーラの夫はどんな人だったとされているのか
映画の外の資料には、夫についての設定が残っています。出どころによって中身が少し違うので、分けて見ます。
設定資料: 亡くなった天才科学者
公開当時の設定資料集『ロマンアルバム 天空の城ラピュタ』(徳間書店)では、ドーラの亡き夫は天才的な科学者だったとされています。物語が始まる時点で、夫はもういない人です。
小説版: タイガーモス号とフラップターは夫の形見
小説版『天空の城ラピュタ』の前篇でも、夫はすでにいない人として語られます。ドーラ一家が乗る飛行船タイガーモス号と、羽ばたいて飛ぶ小型機フラップターは、夫が作ったもの。つまり形見です。
小説版では、一家はもともと帆船で海を荒らす海賊で、夫が空を飛ぶ乗り物を作ったことで空中海賊に変わった、という経緯もあります。夫そのものは、半ば誘拐同然に一家へ連れてこられた人です。ただ小説版のドーラは「あたしに惚れてついてきたんだよ」と言っていて、どちらが本当かは読む人しだいです。
制作に加わった人の本: 神父で科学者
もうひとつ、夫は神父だったという話もあります。木原浩勝さんは、『天空の城ラピュタ』で制作進行(作業の段取りと日程を管理する係)を務めた人です。その著書『増補改訂版 もう一つの「バルス」』(講談社文庫)によると、夫は神父で科学者でした。18歳ごろのドーラに才能を見込まれてさらわれ、フラップターを作ったといいます。ただ、映画の本編にも公式サイトにも、この話は出てきません。
| 出どころ | 夫についての中身 |
|---|---|
| 映画の本編 | 登場しない。セリフもない |
| ロマンアルバム(設定資料集) | すでに亡くなった天才科学者 |
| 小説版 | タイガーモス号とフラップターは夫の形見。半ば誘拐同然に連れてこられた |
| 木原浩勝『増補改訂版 もう一つの「バルス」』 | 神父で科学者。若いドーラにさらわれ、フラップターを作った |
3つとも「映画の外の資料」という点は同じです。本編だけを観た人にとって、夫は最後まで「いない人」のままです。
なぜ夫は作中に出てこないのか
物語の中では、設定資料のとおり夫はもう亡くなっているので、いないのは当然です。では、なぜ映画はその事情さえ語らないのか。こちらは作中でも公式サイトでも説明されていません。ここからは作中の描写と制作者の発言をもとにした読み方です。
手がかりになるのが、ドーラのモデルです。雑誌『アニメージュ』1985年12月号では、ドーラのモデルは宮崎駿監督のお母さんだと紹介されています。宮崎監督自身も「兄弟男ばかり4人そろってもおふくろにはたちうちできなかった」と振り返っています(鈴木敏夫責任編集『スタジオジブリ物語』)。
ドーラ一家は、この「息子たちがそろっても母親にかなわない家族」の形をそのまま空に上げたように見えます。大の男3人が「ママ」に叱られ、言われたとおりに動く。父親がそこにいれば、一家の中心はドーラひとりではなくなります。
僕は、夫が描かれないのは「ドーラが一家を仕切っている」ことをはっきり見せるためだと考えています。夫がすでに亡くなっているという設定資料の話とも、この読み方は食い違いません。物語の中でドーラは、海賊の頭で、母親で、船の持ち主です。頼れる夫がいないから、ドーラが決めたことがそのまま一家の行き先になります。終盤でパズーとシータに手を貸すのも、ドーラひとりの判断です。
若い頃のドーラはどんな人だったのか
ドーラの私室の壁に、若い頃のドーラを描いた肖像画が掛かっています。長いふたつの三つ編みの若い女性で、今のドーラとは別人のように見えます。2022年に金曜ロードショーの公式アカウントが紹介して、改めて話題になりました。
ドーラ自身も、若い頃の自分をシータに重ねています。家に戻ったパズーを捕まえたドーラは、シータがパズーを突き放したのは彼を助けるためだと見抜いて、こう言います。
あたしの若い頃にそっくりだよ
同じ場面で、ドーラは「だてに女を50年やってるんじゃないよ」とも言っています。自分の年齢を50年と言い表した言葉です。設定資料集では50代とされ、60歳くらいとする記述もあります。
シータにそっくりだったという若い頃のドーラと、才能を見込んだ男をさらったという木原さんの本の話。僕は、この2つを並べると、若い頃のドーラは自分で相手を選び、自分で人生を決めてきた人だったと読んでいます。
ドーラの3人の息子は何歳か
設定資料集『ロマンアルバム』では、3人の息子の年齢が決められています。
| 息子 | 年齢 | 見た目の目印 |
|---|---|---|
| シャルル(長男) | 30歳 | 豊かな口ひげの大男。筋肉を膨らませてシャツを破る |
| ルイ(次男) | 25歳 | ちょびひげ |
| アンリ(三男) | 20歳 | いちばん若く、ひげがない |
ドーラを50代とすれば、20代で長男を産んだ計算です。長男と三男は10歳離れています。3人とも夫の子だとすれば、夫とは少なくとも10年は一緒に暮らしていた計算です。
「あたしの若い頃にそっくりだよ」というドーラの言葉に、ルイは「ママのようになるの?あの子」と驚きます。息子たちの側にも、父親を思い出すようなセリフはありません。ドーラから「お前たちも嫁にするんなら、ああいう娘にしな」と言われているので、3人ともまだ独り身のようです。
まとめ
- ドーラの夫は映画に一度も出てこず、名前もセリフもありません
- 設定資料集では、すでに亡くなった天才科学者とされています。小説版では、タイガーモス号とフラップターが夫の形見です。制作進行だった木原浩勝さんの本では、神父で科学者だったと語られています
- 夫を描かない理由は公式に説明されていません。ドーラのモデルが宮崎駿監督の母で、「息子たちが母にかなわない家族」として描かれていることが手がかりになります
- ドーラの私室には若い頃の肖像画があり、本人も「あたしの若い頃にそっくりだよ」とシータに自分を重ねています
- 息子は長男シャルル30歳、次男ルイ25歳、三男アンリ20歳という設定です
ラピュタの結末の先が気になる人は、天空の城ラピュタの幻のエンディングは本当?公式は否定、続きは小説版にも読んでみてください。スクリーンでジブリ作品を観たい人は、ジブリは今映画館でやってる?で上映の予定を確かめられます。
参考
- ロマンアルバム 天空の城ラピュタ(徳間書店・1986年)
- 小説 天空の城ラピュタ 前篇(亀岡修、徳間書店)
- 天空の城ラピュタ — Wikipedia(ドーラの夫と一家の設定) — https://ja.wikipedia.org/wiki/天空の城ラピュタ
- 『天空の城ラピュタ』ドーラのモデルは宮崎駿監督の母(マグミクス) — https://magmix.jp/post/170488
- 『ラピュタ』若き日のドーラの肖像画が話題に(ねとらぼ・2022年8月13日) — https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2208/13/news053.html


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