『猫の恩返し』のムタの本名は「ルナルド・ムーン」、バロンの本名は「フンベルト・フォン・ジッキンゲン」です。この2つの名前が、『耳をすませば』と『猫の恩返し』をつなぐ手がかりになっています。
二作を続けて観ると、引っかかるところが出てきます。地球屋の棚に立っていた燕尾服の人形が、なぜ猫の事務所の所長として歩き回っているのか。あの太った猫は、雫が電車から追いかけたあの猫なのか。
この記事では、ムタとバロンそれぞれの正体と、二作のつながりを整理します。
ムタの正体は?本名は「ルナルド・ムーン」
ムタは、猫の国では大罪人として語り継がれている猫です。
物語の終盤、猫の国の壁画に描かれた「国中の魚を食い尽くして逃げた伝説の大犯罪猫」が、ムタ本人だと明かされます。そのときに出てくる本名がルナルド・ムーン。ハルに付き合ってくれる気のいい太った猫、という前半の印象がひっくり返る場面です。
つまりムタにとって、猫の国は帰りたくない場所です。それでもハルを助けに乗り込んでいくので、序盤の面倒くさそうな態度の意味が後から変わってきます。
ムタは猫の事務所の所員ではありません。バロンの仕事仲間として顔を出す野良猫で、人間の世界と事務所を行き来しています。猫の国の妃にされそうになったハルを、事務所まで案内するのもムタでした。
バロンの正体は?「バロン」は名前ではない
本名はフンベルト・フォン・ジッキンゲンです。「バロン」のほうは男爵を意味する称号で、それが呼び名として通っています。
『耳をすませば』でのバロンは、地球屋の棚に立つ猫の人形でした。店主の西司朗が、戦前にドイツへ留学したときに無理を言って譲り受けてきた品です。西司朗にはドイツ時代の恋人がいて、その名はルイーゼ。雫が書いた物語のなかでも、バロンの相手役として同じ名前の白い猫の人形が出てきます。ただし『猫の恩返し』の登場人物にルイーゼの名前はありません。バロンの相手役という設定は、『耳をすませば』の物語のなかに残ったままです。
『猫の恩返し』のバロンは、自分の足で屋根を駆け、剣を抜き、猫の事務所の所長としてハルを助けます。声を担当した人も違い、『耳をすませば』は露口茂、『猫の恩返し』は袴田吉彦です。
事務所にはもう1人、トトというカラスの仲間もいます。普段は石像の姿でじっとしていて、いざというときに飛んでハルたちを運ぶ役です。
『耳をすませば』とはどうつながっている?
二作でのバロンとムタの扱いを並べると、こうなります。
| 耳をすませば | 猫の恩返し | |
|---|---|---|
| バロンの立場 | 地球屋の棚にある猫の人形 | 猫の事務所の所長 |
| バロンの声 | 露口茂 | 袴田吉彦 |
| 太った猫の呼び名 | ムーン(別名 おたま、ムタ) | ムタ(本名 ルナルド・ムーン) |
『猫の恩返し』は雫が書いた物語という位置づけ
雫は地球屋でバロンに出会い、バロンを主人公にした物語を書き上げます。その物語がそのまま『猫の恩返し』だと映画のなかで示される場面はありません。それでも、この位置づけは派生作品の前提として広く紹介されてきました。映画.comも「『耳をすませば』の主人公・雫が書いた話という設定の物語」と書いています。
そう考えると、人形が動いてしゃべることに理屈が要らなくなります。雫の物語のなかでなら、バロンは何でもできます。
ムーン、おたま、ムタ——呼び名がいくつもある猫
つながりがいちばんはっきり出ているのは、名前のほうです。
『耳をすませば』で雫が追いかけた太った猫を、聖司は「ムーン」と名づけました。飼い主が決まっている猫ではなく、あちこちの家を渡り歩く猫です。だから行く先々で別の名前をつけられていて、「おたま」と呼ぶ家もあれば、「ムタ」と呼ぶ家もあります。
『猫の恩返し』のムタは、本名がルナルド・ムーンで、普段は「ムタ」と名乗ります。『耳をすませば』でばらばらに使われていた2つの呼び名が、1匹の猫のなかに収まっているわけです。
では、ムタは雫が追いかけたあの猫なのか。同じ猫だと映画のなかで説明される場面はありません。それでも呼び名がここまで重なる以上、雫が書いた物語のなかに、あの猫がそのまま書き込まれたと読むのが自然です。
僕は、二作のつながりでいちばん腑に落ちるのがここだと思っています。人形が動き出すのは物語の飛躍ですが、名前の重なりには説明が要りません。
続編なのか、それとも別の話なのか
続編ではありません。
『猫の恩返し』の原作は、柊あおいの漫画『バロン 猫の男爵』です。『耳をすませば』も同じ柊あおいの漫画が原作ですが、物語としては続いていません。ハルは雫とは別の高校生で、二作の登場人物が同じ場面に出てくることもありません。
企画の出発点も違います。始まりは、バロンとムーンが出てくる20分ほどのイベント映像でした。そこへ柊あおいが物語のあらすじを書き下ろし、それが漫画『バロン 猫の男爵』になって、長編の原作になります。人形のバロンを主人公にした話が先にあり、そこから映画が組み立てられたわけです。
公開の間隔も空いています。『耳をすませば』は1995年公開で、監督は近藤喜文でした。『猫の恩返し』の公開は2002年7月20日、監督は森田宏幸です。あいだに7年あり、作り手も原作の成り立ちも入れ替わっています。
猫の国は死後の世界という噂は本当か
映画では説明されていません。
「猫の国は死んだ猫が行く場所で、白猫のユキはすでに死んでいる」。この読み方は長く語られてきました。根拠にされているのは原作のほうです。原作の『バロン 猫の男爵』では、猫の国は「人の世界にいられなくなった猫の来るところ」と説明されているそうです。ハルの回想に、白い猫が車にひかれる場面も入っていると紹介されています。
映画にこれらの描写はありません。ユキの設定も違うと紹介されています。原作では7、8年前までハルが飼っていた猫、映画では幼いハルにクッキーをもらった野良猫です。
つまりこの噂は、原作の設定を映画に当てはめた読み方です。映画だけを観て、猫の国が死者の国だと分かる場面はありません。作品の噂と公式の説明を切り分ける話としては、トトロの都市伝説は本当?も同じ形です。
まとめ
- ムタの本名はルナルド・ムーン。猫の国の魚を食い尽くして逃げた大犯罪猫として、壁画に残っている
- バロンの本名はフンベルト・フォン・ジッキンゲン。「バロン」は男爵という称号で、名前ではない
- 『猫の恩返し』は月島雫が書いた物語という位置づけ。原作も企画の出発点も違い、続編ではない
- 『耳をすませば』のムーンには「おたま」「ムタ」という別の呼び名があり、それがムタの本名と重なる
- 猫の国が死後の世界だという読みは原作に根拠があり、映画では説明されていない
ジブリパークの「青春の丘」には、『耳をすませば』の地球屋と、『猫の恩返し』の猫の事務所が建っています。猫サイズの木造平屋のなかには、家具や小物に囲まれたバロンとムタの姿も。青春の丘だけに入れる券種もあるので、行き方を考えるならジブリパークのチケット7種類の違いを見てみてください。
参考
- 猫の恩返し 作品ページ — スタジオジブリ — https://www.ghibli.jp/works/baron/
- 耳をすませば 作品ページ — スタジオジブリ — https://www.ghibli.jp/works/mimi/
- 青春の丘 — ジブリパーク — https://ghibli-park.jp/about/seishunnooka.html
- 「猫の恩返し」あらすじ、声優まとめ 「耳をすませば」との関係、大泉洋&安田顕の役柄 — 映画.com(2024年5月3日) — https://eiga.com/news/20240503/15/
- 【猫の恩返し】原作で描かれた裏設定とは?「猫の国」の正体は…。原作と映画の違いを徹底解説 — BuzzFeed Japan — https://www.buzzfeed.com/jp/keitoarai/nekonoongaeshi-baron-tigai

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