ポニョの死後の世界説は本当?根拠の場面を一つずつ確かめる

『崖の上のポニョ』の津波のあとは死後の世界で、街の人はみんな死んでいる。そう読む都市伝説がありますが、スタジオジブリはこの説を否定も肯定もしていません。

同じジブリ作品でも、『となりのトトロ』の死神説には2007年に広報部の否定コメントが出ています。ポニョにはそれがありません。だからこの説は「公式に否定された噂」ではなく、「公式が何も言っていない読み方」として残り続けています。

根拠として挙げられる場面は、水に沈んだ街を泳ぐ古代の魚、走り出す老人たち、トンネル、古い身なりの家族、宗介が両親を呼び捨てにすること。この記事では、その一つひとつが作中でどう描かれているかを見て、どこからが読み手の解釈なのかを分けます。

ポニョの死後の世界説はどういう話なのか

嵐のあと、街は海に沈みます。その水の底の世界が、あの世なのではないかという読み方です。

説の中身はおおむねこうです。ポニョが海を呼び寄せた夜、津波が街を飲み込む。翌朝、宗介とポニョが小さな船で出かけると、水面の下に家や道がそのまま沈んでいる。人々は無事で、ボートに乗って穏やかに過ごしている。この落ち着きすぎた光景は、みんなすでに死んでいるからだ、というわけです。

もう少し踏み込んだ形では、宗介も途中で死んでいて、ポニョが魂を連れていく役だという読みもあります。本名のブリュンヒルデが、北欧の神話をもとにした楽劇で戦死者を運ぶ役だから、というのが持ち出される理由です。

この読み方は、2008年7月19日の公開から長く語り継がれてきた噂です。テレビで放送されるたびに、水に沈んだ街の場面が引き合いに出されます。

根拠とされる場面は何を描いているのか

よく挙がる順に見ます。

沈んだ街を泳ぐ古代の魚

沈んだ街の上を、見慣れない大きな魚が泳いでいます。宗介はその魚を、ボトリオレピス、ディプノリンクス、デボネンクスと名前で呼んでみせます。

これは死後の世界説でいちばんよく挙がる根拠です。ボトリオレピスとディプノリンクスは、4億年ほど前のデボン紀に実際にいた生き物。とうに姿を消した魚が泳いでいるのだから、この水は普通の海ではない、という筋道になります。

ただ、映画はこの魚を「死んだ世界のしるし」として出してはいません。ポニョの父フジモトは、海に生命の力をあふれさせて古い時代の海を取り戻そうとしていた人物です。物語の途中で海の均衡が崩れ、月が近づき、世界そのものが古い姿に戻りかけます。古代の魚が泳いでいるのは、その異変が目に見える形になったものでしょう。

もちろん「古い海に戻る」と「あの世になる」は、見た目が似ています。水底に沈んだ街を大きな魚が横切る絵は、どちらの読みも支えてしまう。この説がなかなか消えない理由は、そこにあるのでしょう。

走り出す老人たち

ひまわりの家の老人たちが、水の中で立ち上がって走ります。車椅子に乗っていた人たちです。

死後の世界説では、ここが決め手として挙げられます。歩けなかった人が走れるようになるのは、体を失ったからだ、という読み方です。

一方で、この場面は魔法の説明でも通ります。ポニョの母グランマンマーレは海を司る存在として描かれ、老人たちは水の中で息をして話もしています。すでに人間の理屈が効かない場所です。足が動くことだけを死の証拠と見るのは、線の引き方が偏っています。

作中の老人たちは、死者らしい静けさとも無縁です。走り、驚き、うれしそうに騒ぎます。あの世に来た人の描き方としては明るすぎます。

トンネルと入口の石像

宗介とポニョが通る古いトンネルは、入口に石の像が置かれています。

ポニョはこのトンネルを嫌がり、中を進むうちに力を失って魚の姿に戻ってしまいます。境目を越えるとき力が働く場所、つまり現世とあの世の境だという読みが、ここから出てきます。

ジブリ作品には、トンネルを抜けて別の世界へ入る話が確かにあります。『千と千尋の神隠し』がそうで、あちらは入口と出口で世界が変わる作りでした。詳しくは千と千尋のラストでなぜ振り返ってはいけない?禁止には期限があるにまとめています。

ポニョのトンネルは、抜けた先が別世界として描かれてはいません。出てきた二人を迎えるのは、フジモトです。そのまま海に沈んだひまわりの家へ案内され、母リサとグランマンマーレに会います。境目を越えたというより、話がそのまま次の場面へ続く形です。似た形をしているからといって、同じ意味とはかぎらない。トンネルが「境目」に見えるのは、観る側が別の作品の記憶を重ねているからでもあります。

古い時代の身なりをした家族

海の上で、宗介とポニョは小さな舟に乗った夫婦と赤ん坊に出会います。今の服装ではない、古めかしい身なりの家族です。

死後の世界説では、この家族が三途の川を渡る魂だとされます。ポニョが持っていた食べ物を差し出し、泣いていた赤ん坊をあやす場面が、魂を導く姿として読まれるわけです。

この家族が何者なのかは、作中で説明されません。宗介たちと同じように水の上にいて、同じように言葉を交わす。それだけです。

僕は、この場面は説明しないことに意味があると読んでいます。時代の違う人が同じ水の上に並んでいる。その不思議さだけを見せる一場面で、あの世の描写だと決めつける手がかりは作中にありません。

宗介が両親を呼び捨てにすること

宗介は母を「リサ」、父を「耕一」と呼びます。5歳の子どもの呼び方としては珍しい形です。

死後の世界説では、親子の縁がすでに切れているしるしだと語られます。この設定には、もっと素直な読み方があります。リサは息子を子ども扱いしません。留守番を任せ、宗介の判断をそのまま受け取り、嵐の夜の運転にも連れていきます。呼び捨ては、その親子の距離がそのまま画面に出た形です。

両親のほうも、呼び捨てにされることを何とも思っていません。叱る場面も出てきません。縁が切れているなら、リサがポニョを迎え入れて世話を焼く理由がなくなります。

沈んだ街の人たちはその後どうなるのか

生きている人として、話に出続けます。

海に沈んだひまわりの家で宗介を待っているのは、母リサとグランマンマーレです。二人は言葉を交わし、グランマンマーレは宗介の気持ちとポニョの願いを確かめたうえで、ポニョを人間にする魔法をかけます。

この場面は、みんなが死んでいるなら要りません。ポニョが人間になって宗介と陸で暮らす、という結末そのものが、陸の暮らしが続くことを前提にしています。物語は、死んだ世界に留まる話ではなく、陸に戻る話として閉じます。

制作した人たちは何と言っているか

宮崎駿監督がこの説を認めた発言も、否定した発言もありません。

よく引き合いに出されるのが、音楽を担当した久石譲の言葉です。2008年7月30日の読売新聞に載ったインタビューで、この作品は死後の世界や輪廻、魂の不滅といったテーマを投げかけていると語りました。ただし子どもの目には冒険物語として映る。その二重構造を音楽にするのが大変だった、という話です。

ただ、これは音楽の作り方の話です。「作品の舞台が死後の世界だ」と言ったわけではありません。テーマとして死や生まれ変わりを考えた、というのと、登場人物が死んでいる、というのは別のことです。

ポニョの本名についても同じことが言えます。ブリュンヒルデはワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』に出てくる名前で、宮崎監督は構想中にその第2作『ワルキューレ』を聞いていました。名前の出どころははっきりしています。ただし、名前を借りたことと、物語の役割まで同じだということは、つながりません。

そして、この作品のキャッチコピーのひとつは「生まれてきてよかった。」でした。死んだ人の話として売られた作品ではありません。

トトロの都市伝説とは何が違うのか

いちばん大きな違いは、公式の否定があるかどうかです。

『となりのトトロ』の死神説には、はっきりした答えが出ました。2007年5月1日、スタジオジブリの広報部が公式サイトでこう答えています。

トトロが死神だとか、メイちゃんは死んでるという事実や設定は、「となりのトトロ」には全くありませんよ。

経緯はトトロの都市伝説は本当?サツキとメイ死亡説を公式と描写で検証に整理しました。

ポニョには、これに当たるものがありません。噂は広まっているのに、公式はこの点を明言していないのです。だから「否定された」とも「公式が認めた」とも書けず、読み方が並んだままになっています。

『猫の恩返し』の猫の国も、公式が正体を説明していないぶん、あの世だという読みが残っています。そちらは猫の恩返しのムタとバロンの正体は?耳をすませばとつながる呼び名で扱いました。公式が黙っている場所ほど、噂は長生きします。

僕は、ポニョは死後の世界の話ではないと考えています。根拠とされる場面はどれも、海が古い姿に戻りかけているという作中の出来事で説明がつく。それでも「絶対に違う」と言い切れないのは、映画がその可能性をわざわざ閉じていないからです。

まとめ

  • 『崖の上のポニョ』の死後の世界説について、スタジオジブリも宮崎駿監督も、認める発言をしていないし否定もしていない
  • 根拠とされる古代の魚・走る老人たち・トンネル・舟の家族・両親の呼び捨ては、どれも作中の出来事や設定で説明がつく
  • 久石譲が語ったのは音楽のテーマとしての死や輪廻で、舞台が死後の世界だという説明ではない
  • トトロの死神説には2007年5月1日のジブリ広報部の否定(「そういう事実や設定は全くありませんよ」)があるが、ポニョにそれに当たるものはない
  • 僕は死後の世界の話ではないと読んでいる。ただし映画がその可能性を閉じていないので、別の読み方も残る

この作品をもう一度スクリーンで観たい人は、ジブリは今映画館でやってる?で今後の上映予定を確かめてください。

参考

  • ジブリ日誌 2007年5月1日(スタジオジブリ。トトロの都市伝説への広報部のコメント) — https://www.ghibli.jp/storage/diary/003717/
  • 久石譲インタビュー(読売新聞・2008年7月30日)
  • 崖の上のポニョ(Wikipedia。本名ブリュンヒルデ・宗介の呼び方・登場人物・あらすじ) — https://ja.wikipedia.org/wiki/崖の上のポニョ

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