耳をすませばの天沢聖司の声は14歳の高橋一生、声変わりの1週間前

『耳をすませば』の天沢聖司を演じたのは、公開当時14歳だった高橋一生です。しかも、あの声が録れたのは偶然に近い。収録のおよそ1週間後から、本人の声変わりが始まっていました。

聖司の声だけ、他のジブリ作品の少年役とは響きが違って聞こえます。低いのに硬くない、少しかすれた声。演技の工夫というより、14歳の数か月だけ存在した声そのものです。

この記事で整理するのは3つです。一度落ちたオーディションからどう呼び戻されたのか、聖司というキャラクターに何が起きたのか、収録の直後に何が始まったのか。どれも本人が語った言葉にもとづきます。

天沢聖司の声を演じたのは誰か

高橋一生です。スタジオジブリの作品紹介にも、声の出演として本名陽子に続いて名前が並んでいます。

『耳をすませば』の公開は1995年7月15日。監督は近藤喜文、原作は柊あおいの同名漫画で、脚本と絵コンテ、製作プロデューサーを宮崎駿(宮﨑駿)が務めました。

監督の近藤喜文にとって、これが唯一の長編監督作です。この映画の2年半後、1998年1月に47歳で亡くなりました。

高橋一生は1980年12月9日生まれです。公開の年に15歳になる計算で、当時は14歳。小学校高学年のころに児童劇団を一度辞めていて、芝居からは離れていた時期にあたります。

つまり、聖司とほぼ同い年の中学生が聖司を演じました。

なぜ一度落ちた中学生が選ばれたのか

高橋一生は、このオーディションに一度落ちています。

きっかけからして偶然でした。小学校高学年で辞めたはずの児童劇団から、アニメ映画の声優オーディションの誘いが来ます。受けてみたものの、結果は不合格でした。

普通ならここで終わりです。ところが1週間ほどして、「もう1回来てほしい」という連絡が入ります。そして二度目で役が決まりました。

一度不合格にした相手を呼び戻した理由を、制作側は語っていません。分かっているのは、二度目の場で何が起きたかだけです。

聖司のほうが高橋一生に寄せられた

呼び戻された高橋一生は、二度目の場で映像を見せられます。そのとき制作側から告げられたのが、こういう言葉でした。

前よりも一生くんっぽくしてみました

声を絵に合わせるのではなく、絵のほうを声に合わせた。順番が逆です。

背伸びして夢を語るくせに、雫の前では急にぶっきらぼうになる。聖司のあの不器用さは、演技の前に、造形の段階から14歳の高橋一生に寄っていました。

僕は、聖司の声が他の少年役と違って聞こえる理由の半分は、ここにあると考えています。役に人を合わせた声ではなく、人に役を合わせた声なのです。

あの声は声変わりの1週間前に録られていた

収録が終わってからおよそ1週間後、高橋一生の声は変わり始めます。本人が2015年1月8日放送のNHK「スタジオパークからこんにちは」で語りました。

ちょうど、この1週間後くらいにですね、僕、声がガラガラし始めて。2週間後ぐらいにもう、この声になってました

つまり、あの声が録れる期間はごくわずかしか残っていませんでした。収録がもう少し遅ければ、別の声の聖司になっていたはずです。

声変わりは、始まってしまえば戻りません。もう一度録り直すことも、同じ声で続編に出ることもできない。作品に残った聖司の声は、文字どおり二度と再現できない音になりました。

改めて聴くと、低音に届きかけて届いていない、途中の声だと分かります。少年と青年のあいだで揺れている声。「コンクリートロードはやめた方がいいと思うぜ」と雫の替え歌をからかう中学生に、これ以上合う声は思いつきません。

なぜ専業の声優ではなかったのか

ジブリの作品では、主要な役に専業の声優ではない人が並ぶことがよくあります。『耳をすませば』も同じです。雫の父を評論家の立花隆が、母を室井滋が演じました。

公式の作品紹介に並ぶ声の出演は、本名陽子、高橋一生、立花隆、室井滋、露口茂、小林桂樹の6人です。専業の声優の名前はここにありません。俳優と文化人、そして子役だった中学生で固めた顔ぶれになっています。

この方針は『耳をすませば』に限りません。宮崎駿と高畑勲がなぜ俳優や文化人を選び続けたのかは、ジブリはなぜ声優を使わない?宮崎駿と高畑勲が求めた「存在感」にまとめました。

聖司の起用は、その方針のいちばん分かりやすい例だと思います。14歳を演じられる技術のある人ではなく、14歳である人が選ばれた。しかも本人の声が変わる直前という、ごく短い期間だけ成立する配役でした。

技術で足りるなら、経験のある声優に頼むほうが収録は早く終わります。それでも実年齢の中学生を選び、一度不合格にした相手を呼び戻した。僕は、その手間のかかる選び方が、雫と聖司のやり取りの自然さに出ていると読んでいます。

この収録が高橋一生に残したもの

高橋一生は当時、役者を続けるかどうか決めかねていました。

この作品がきっかけで俳優を続けられたらいいと思うようになった、と本人が語っています。声だけの表現だったぶん体を使って表現したくなり、今の事務所に入ったそうです。出会っていなければ演じることから離れていたと思う、とも話しています。

つまり、芝居から離れかけていた中学生を引き戻したのが、落ちたはずのオーディションでした。

その後の高橋一生の活躍を知っている人ほど、聖司の声を聴き直したときの感じ方が変わるはずです。俳優としての出発点が、雫に「やな奴」と思われているあの中学生でした。

今からあの声を聴くには

2026年8月17日にスタジオジブリが告知した内容です。『耳をすませば』の4Kデジタルリマスター版は、2026年10月23日から11月2日まで全国のIMAX劇場で上映されます。10月30日から11月12日には上映が広がり、Dolby Cinemaでも観られます。

音の情報量が増える環境で聴くと、聖司の声のかすれ具合はいっそう分かりやすいはずです。上映期間や劇場、特典については耳をすませば・借りぐらしのアリエッティのIMAXはいつまで?どこで?で整理しています。

まとめ

  • 天沢聖司を演じたのは高橋一生。1980年12月9日生まれで、1995年7月の公開当時は14歳でした
  • オーディションには一度落ちています。1週間ほどして呼び戻され、二度目で役が決まりました
  • 二度目の場で見せられた映像は、聖司の造形が本人に寄せて描き直されたものでした
  • 収録のおよそ1週間後に声変わりが始まり、2週間後には今の声になったと本人が語っています。あの声は録り直せません
  • この作品がきっかけで俳優を続けたいと思うようになった、と高橋一生本人が語っています

雫と聖司が最後にどこまで約束したのかは、耳をすませばの雫と聖司はその後結婚した?映画は約束で終わっているで扱っています。

参考

  • 耳をすませば 作品紹介(スタジオジブリ) — https://www.ghibli.jp/works/mimi/
  • 「耳をすませば」で声優を務めた高橋一生が「声変わり」の秘話を語る(ライブドアニュース、2015年1月8日。NHK「スタジオパークからこんにちは」2015年1月8日放送での発言) — https://news.livedoor.com/topics/detail/9654550/
  • 『耳をすませば』名言・名台詞まとめ(アニメイトタイムズ) — https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1777257804
  • 高橋一生 本人インタビュー(双葉社 THE CHANGE、2026年4月6日。オーディションの経緯と「前よりも一生くんっぽくしてみました」) — https://futabasha-change.com/articles/-/2690
  • 高橋一生 本人インタビュー(週刊女性PRIME。俳優を続けようと思ったきっかけ) — https://www.jprime.jp/articles/-/8382

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